株式譲渡と事業譲渡はどう違う?税金・許認可・従業員の引継ぎで比べる【非公式】
更新日:2026-11-05
本アプリ「中小M&A資格試験 対策」は運営団体非公式の対策アプリです。本記事は公式の過去問ではなく、中小企業庁が公表する「中小M&Aガイドライン」「中小PMIガイドライン」「専門人材スキルマップ」等に基づき作成した非公式の解説であり、教育・学習目的で提供しています。試験の実施団体とは一切関係ありません。
中小M&Aで会社や事業を引き継ぐ方法にはいくつかの種類がありますが、ガイドラインは、実務では株式譲渡か事業譲渡のどちらかが選ばれることが多いとしています。どちらを使うかで、引き継がれるものの範囲、必要な手続、関係者への影響、かかる税金が大きく変わります。
本記事は、中小M&Aガイドライン第3版と中小PMIガイドラインが示す2つの手法の特徴を、簿外債務・許認可・従業員・税金・株主の同意といった観点ごとに非公式に整理したものです。
どちらの手法が向いているかは、会社の状況や相手方との交渉によって異なります。税率や特例は改正されることもあるため、実際に選ぶときは税理士・弁護士などの士業等専門家や事業承継・引継ぎ支援センターに確認してください。
2つの手法の基本:「株主が替わる」か「事業を切り出して渡す」か
ガイドラインの用語集では、M&Aは合併や会社分割といった会社法上の組織再編に加え、株式譲渡や事業譲渡を含む、さまざまな手法による事業の引継ぎを指すとされています。そのうえで、実務では株式譲渡か事業譲渡が選ばれることが多いとされ、ほかの手法の概要はガイドラインの参考資料1にまとめられています。
株式譲渡は、譲り渡し側の株主(多くの場合は経営者)が、自分の持つ株式を譲り受け側に渡す手法です。会社そのものは残り、持ち主(株主)だけが替わります。事業譲渡は、譲り渡し側の会社が、自社の事業を譲り受け側に渡す手法で、渡す財産(承継対象財産)を選んで、会社から切り離して引き継がせます。
なお、どちらの手法でも、すべてを渡すことが必須ではなく、一部だけを譲渡するケースもあり、その範囲は当事者どうしの協議・交渉で決まるとされています。また、個人事業主の中小M&Aでは、株式がないため、事業譲渡(営業譲渡)の手法を用いるのが通常とされています。
簿外債務・偶発債務のリスクとDDの深さ
株式譲渡は手続が比較的シンプルですが、会社(法人格)はそのまま残るため、帳簿に表れない未払残業代のような簿外債務や、紛争の損害賠償のように今は生じていないが将来生じ得る偶発債務も、会社ごと引き継がれます。そのため、こうしたリスクが比較的高くなりやすく、より詳しいデュー・ディリジェンス(DD)が行われる傾向にあるとされています。
事業譲渡は、引き継ぐ資産や負債を選べるので、簿外債務・偶発債務のリスクを比較的遮断しやすいとされています。財務DDについてガイドラインは、株式譲渡を前提にする場合は簿外債務や偶発債務も含めた全般的な調査が必要になることが多いとし、DDで多額の簿外債務・偶発債務が見つかったために、予定していた株式譲渡から事業譲渡へ手法を変えざるを得なくなることもあると説明しています。
許認可・契約・財産の引継ぎの手間
株式譲渡では会社が同じまま続くため、中小PMIガイドラインは、会社が持つ許認可は原則としてそのまま継続するとしています。中小M&Aガイドラインも、許認可等の再取得や登記手続等が不要で手続が簡便な点を、株式譲渡の利点に挙げています。
事業譲渡では、事業を受け取るのは別の会社(譲り受け側)なので、許認可は当然には引き継がれず、個別の法律に承継を認める定めがある場合に限って承継できるとされています。承継できないときは、譲り受け側が先に許認可を新しく取ってから事業譲渡を行うといった対応がとられますが、人員や設備の要件を満たせず新規に取れないケースもあるとされています。さらに、土地・建物や機械設備などの承継対象財産を特定し、不動産登記などの対抗要件を備える作業も必要になります。
どちらの手法でも、リース契約・賃貸借契約・借入れの契約などは名義変更や保証人の変更が必要になり、賃貸借契約などにチェンジ・オブ・コントロール条項(支配権が変わったときの取り決め)がある場合は、契約を続けるために事前に賃貸人などと協議・交渉が必要になることがあるとされています。中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受けた事業者は、許認可の承継の特例や事業譲渡の際の免責的債務引受に関する特例、登録免許税・不動産取得税の特例を受けられるとされていますが、税の特例には適用期限があるため注意が必要です。
従業員の雇用:事業譲渡では一人ひとりの承諾が必要
中小PMIガイドラインは、人事・労務の面でも手法によってやるべきことが違うとしています。株式譲渡では、雇い主である会社も従業員も変わらないため、それまでの労働契約は原則としてそのまま続けられます。
事業譲渡では、労働契約が当然には譲り受け側へ移らず、引き継ぐには従業員の個別の承諾(民法第625条第1項)が必要とされています。そのため、まずは雇用を確実に引き継ぐことが重要で、譲り受け側は従業員に対し、どの事業がどのような形で引き継がれるのか、譲り受け側がどんな会社か、退職金を含む労働条件などを十分に説明し、協議する必要があるとされています。
参考までに、会社分割では労働契約承継法の手続に沿った対応が必要になり、合併では権利義務がすべて包括的に引き継がれるため、労働条件もそのまま承継されるとされています。会計の面でも、株式譲渡では譲り渡し側の決算手続が原則そのまま維持される一方、事業譲渡では譲り受け側の会計に統合するため、仮決算やデータの引継ぎが必要になるとされています。
税金の違い:お金を受け取るのは経営者個人か会社か
株式譲渡では、株式を売った株主(経営者個人)が譲渡代金を受け取ります。ガイドラインは、株主である経営者個人の税金は、譲渡益に対する分離課税(税率20.315%)で課税関係が終わると説明しています。また、株式を取得した後に合併などをした場合、一定の要件を満たせば対象会社の欠損金を引き継げることも、株式譲渡の利点に挙げられています。
事業譲渡では、譲渡代金は事業を売った会社に入り、その利益には法人税等がかかります。その後に配当や役員報酬として経営者へ渡すと総合課税(税率15.105%〜55.945%)の対象になるため、分離課税となる役員退職慰労金の支給とあわせて検討することもあり得るとされています。そのほか、事業譲渡では資産調整勘定(のれん)が生じた場合に損金に算入できる利点がある一方、不動産を取得する場合の不動産取得税・登録免許税や、減価償却資産などの譲渡が消費税の課税売上にあたる点に注意が必要とされています。
このほか、経営者個人に所得が生じると、所得税・住民税だけでなく、会社の社会保険に入っていない場合は国民健康保険料などにも影響するとされています。また、株式譲渡契約書などは一般に印紙税がかからない文書ですが、代金を受け取った旨が書かれていると課税文書にあたり、収入印紙が必要になるとされています。税率や特例は改正されることがあるため、実行の時点の制度を税理士に確認することが大切です。
株主の同意と登記:会社の中で必要になる手続
株式譲渡で会社の全株式を渡す場合について、ガイドラインは、全株主から株式を買い取っておくか、株式譲渡についての委任状を取っておくことが必要になるとしています。株式が分散していたり、所在の分からない株主がいたりすると、株式譲渡は難しくなります。
全事業を事業譲渡する場合は、出席した株主の議決権の3分の2以上による株主総会の特別決議(会社法第309条第2項第11号・第467条第1項第1号)が必要になることがあるとされています。ガイドラインは、所在不明株主がいたり株式が分散していたりして株式譲渡が難しくても、特別決議で承認を得られるなら、事業譲渡が有効な手段になるとしています。
クロージングの前後には、手法ごとに次のような作業が出てきます。株式譲渡では、代表者を替えるための株主総会・取締役会や登記手続などが必要です。事業譲渡では、売掛金の振込先口座の変更、クロージング後の売掛金・買掛金の清算、給与体系や就業規則の統一などが挙げられています。承継対象財産に不動産が含まれる事業譲渡では、クロージング後すみやかに登記手続を行うため、最終契約の前の早い時期に司法書士へ必要書類を確認しておくことが望ましいとされています。
債務超過の会社が事業譲渡を使うときの注意点
会社全体では赤字や債務超過でも、部門や店舗ごとに見ると黒字の事業を持っていることも多く、ガイドラインは、そうした一部の事業だけを事業譲渡などで引き継ぐ道も含めて検討することが望ましいとしています。
ただし、債務超過の会社が事業譲渡を行うとき、対価が不当に低く適正な金額が支払われないと、債権者(特に金融機関)から詐害行為取消権(民法第424条)を、監督委員などから否認権(民事再生法第127条等)を行使されるおそれがあるとされています。譲り受け側にも、譲り渡し側の商号を使い続けた場合の責任(会社法第22条)や、詐害事業譲渡にかかる債務の履行請求(会社法第23条の2)を受けるおそれがあります。ガイドラインは、少なくとも破産したと仮定した場合の価値(清算価値)を相当程度上回る金額での事業譲渡等が求められるとし、できる限り事前に説明を尽くして債権者などの了承を得ておくことが望ましいとしています。
試験で問われやすい誤った理解
「株式譲渡なら、買い手は会社の簿外債務を引き継がずに済む」という理解は誤りです。株式譲渡では会社がそのまま残るため、簿外債務・偶発債務のリスクは比較的高くなりやすく、そのぶん詳しいDDが行われる傾向にあるとされています。リスクを比較的遮断しやすいのは、引き継ぐ資産・負債を選べる事業譲渡のほうです。
「事業譲渡なら、許認可も従業員の雇用契約も自動的に買い手へ移る」というのも誤りです。許認可は当然には承継されず、個別の法律に定めがある場合に限られ、労働契約の引継ぎには従業員一人ひとりの承諾が必要とされています。また、「事業譲渡の代金は株主である経営者個人に直接入る」という理解も正しくなく、代金はいったん会社に入り、法人税等の課税を受けます。個人事業主のM&Aでは株式がないため、事業譲渡(営業譲渡)を用いるのが通常という点も押さえておきましょう。
まとめ
株式譲渡は、会社をそのまま引き継ぐため手続が比較的シンプルで、許認可や雇用も原則として続きますが、簿外債務・偶発債務まで引き継ぐリスクがあり、全株式を集める必要があります。事業譲渡は、引き継ぐものを選べるためリスクを遮断しやすい一方、財産ごとの移転手続、許認可の取り直し、従業員一人ひとりの承諾、会社に入る代金への課税といった手間やコストが生じます。どちらが良いかは一律には決まらず、DDの結果によって手法を変えることもあるため、士業等専門家とともに比べて決めることが大切です。
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よくある質問
株式譲渡と事業譲渡の一番大きな違いは何ですか?
株式譲渡は株主が株式を渡す手法で、会社そのものは残り、持ち主だけが替わります。事業譲渡は会社が自社の事業を渡す手法で、引き継ぐ資産・負債を選んで切り離せます。そのため、株式譲渡は手続が比較的シンプルな一方で簿外債務・偶発債務のリスクが高くなりやすく、事業譲渡はそうしたリスクを遮断しやすい一方で、財産ごとの移転手続や許認可の取得などの作業が必要になるとされています。
事業譲渡で従業員はそのまま買い手に移りますか?
中小PMIガイドラインは、事業譲渡では労働契約が当然には譲り受け側へ移らず、従業員の個別の承諾(民法第625条第1項)が必要だとしています。譲り受け側は、引き継がれる事業の状況や自社の概要、退職金を含む労働条件などを十分に説明し、協議する必要があるとされています。株式譲渡では、会社と従業員の労働契約は原則としてそのまま続きます。
株式譲渡と事業譲渡で、経営者の税金はどう変わりますか?
ガイドラインは、株式譲渡では経営者個人の譲渡益に対する分離課税(税率20.315%)で課税関係が終わるとしています。事業譲渡では代金が会社に入って法人税等がかかり、その後に配当や役員報酬で経営者へ渡すと総合課税(税率15.105%〜55.945%)の対象になるとされています。税率や特例は改正されることがあるため、実行時点の制度を税理士に確認してください。
株主が分散していて株式を集められない場合はどうすればよいですか?
ガイドラインは、所在不明株主がいたり株式が分散していたりして株式譲渡が難しくても、株主総会の特別決議で承認を得られるなら、事業譲渡が有効な手段になるとしています。名義株や所在不明株主の整理には会社法上の手続や特例もあるため、弁護士などの士業等専門家に相談してください。
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- 中小M&Aガイドライン(第3版)(p16(用語集:M&Aの定義・合併や会社分割を含む各種手法・参考資料1))
- 中小M&Aガイドライン(第3版)(p48-49(最終契約の交渉・締結:株式譲渡と事業譲渡の特徴・一部譲渡・個人事業主は事業譲渡(営業譲渡)が通常))
- 中小M&Aガイドライン(第3版)(p56-57(クロージング:不動産の登記・担保解除/クロージング後の引継ぎ作業(共通・株式譲渡・事業譲渡)・チェンジ・オブ・コントロール条項))
- 中小M&Aガイドライン(第3版)(p114(財務DD:株式譲渡スキーム前提の調査範囲・DD結果による事業譲渡スキームへの変更))
- 中小M&Aガイドライン(第3版)(p117-118(税理士:課税関係等を踏まえた助言・印紙税・株式譲渡と事業譲渡のメリット・デメリット・経営者個人の税金))
- 中小M&Aガイドライン(第3版)(p119(中小企業等経営強化法における登録免許税・不動産取得税の特例、許認可承継の特例))
- 中小M&Aガイドライン(第3版)(p124-125(弁護士:全株式の株式譲渡と全株主からの買取り・委任状/全事業の事業譲渡と株主総会特別決議))
- 中小M&Aガイドライン(第3版)(p128(弁護士:適正対価での事業譲渡等の必要性・一部事業譲渡等の可能性の検討))
- 中小M&Aガイドライン(第3版)(p129-130(弁護士:不動産を含む事業譲渡・会社分割・合併と司法書士への早期の照会))
- 中小PMIガイドライン(P.105(人事・労務分野におけるM&Aの実施形態による留意点:株式譲渡・事業譲渡・会社分割・合併))
- 中小PMIガイドライン(P.110(会計・財務分野におけるM&Aの実施形態による留意点))
- 中小PMIガイドライン(P.118(M&Aの手法による許認可等の承継))