M&Aの準備は何から?譲り渡し側の「見える化」「磨き上げ」と株式・資産の整理【非公式】
更新日:2026-11-04
本アプリ「中小M&A資格試験 対策」は運営団体非公式の対策アプリです。本記事は公式の過去問ではなく、中小企業庁が公表する「中小M&Aガイドライン」「中小PMIガイドライン」「専門人材スキルマップ」等に基づき作成した非公式の解説であり、教育・学習目的で提供しています。試験の実施団体とは一切関係ありません。
中小M&Aでは、譲り受け側を探し始める前の「準備」の出来が、その後の交渉や手続の進みやすさを大きく左右します。とはいえ、日々の経営に追われる中で、何から手を付ければよいか分からないという経営者も少なくありません。
本記事は、中小M&Aガイドライン第3版の記載をもとに、譲り渡し側の経営者がM&Aに先立って進めておきたい準備を、順を追って非公式に整理したものです。
株式の買取りや資産の整理、税務・法務にかかわる具体的な判断は会社ごとに異なります。実際に進める際は、顧問税理士や弁護士等の士業等専門家、事業承継・引継ぎ支援センター等の支援機関に必ずご相談ください。
準備は支援機関への相談から始まる
ガイドラインは、M&Aを実行するかどうかを経営者が一人で決めるのは簡単ではないとして、まず早い段階で身近な支援機関に相談し、その助言を受けながら事前準備を進めることが望ましいとしています。一人で考えていると目の前の業務が優先されて検討が止まりがちになり、専門知識がないまま考え続けることで判断を誤るおそれもあるためです。
相談先には、商工団体、公認会計士・税理士・中小企業診断士・弁護士といった士業等専門家、金融機関、M&A専門業者、公的な窓口である事業承継・引継ぎ支援センターなどが挙げられています。実際には顧問税理士に最初に相談する例が多いと考えられる一方、相談しやすければ所属する商工団体や取引のある金融機関でもよく、日本政策金融公庫でも相談を受けているとされています。
最初の相談に持っていく資料と、伝え方の心構え
最初の相談では、直近3年分の税務申告書と決算書(損益計算書・貸借対照表を含む)、勘定科目内訳明細書の写しがあれば足りるとされています。できれば会社案内やホームページの写しなど、事業の概要が分かる資料もあるとよく、それ以上の細かな資料は支援機関から指示を受けてから用意すれば十分とされています。
ガイドラインは、まだ譲り渡すかどうか決めていないから相談を控えるのではなく、決めていないからこそ相談が必要だという立場をとっています。また、自分に不利な情報や言いにくい情報ほど先に伝える姿勢が望まれるとしています。早く分かれば、支援機関が課題への手当てを早めに考えられ、手続も滑らかに進みやすくなるためです。
後継者がいないことの確認と、希望条件の整理
準備の段階では、親族や社内に後継者候補がいないことを確かめておく必要があるとされています。具体的には、親族内で引き継がないことについて身近な親族(特に子や兄弟)の了解を得ておくこと、社内に引き継げる人がいない(従業員承継ができない)ことを確かめておくことが挙げられています。このとき、話が外に漏れないよう秘密保持に気を配ることも求められています。
あわせて、引退後にどう過ごしたいかを含めた希望条件を前もって考えておくことが必要とされます。しばらくは事業に関わり続けたいのか、別の事業を始めたいのか、社会貢献や余暇に時間を使いたいのかは、その後の人生を左右する要素です。希望条件は譲渡の対価や従業員の雇用の継続に限らず、できるだけ優先順位を付け、譲れない点を固めておくと、交渉で何を話し合うべきかがはっきりし、交渉を円滑に進める助けになるとされています。ガイドラインの事例の見出しにも、従業員の雇用の引継ぎや、成立後も一定期間経営に関わることを条件として成立した例が挙げられています。
「見える化」「磨き上げ」とは何か
事業承継では一般に、経営の状況や課題を把握する「見える化」と、承継に向けて経営を改善する「磨き上げ」が必要とされます。ガイドラインは、中小M&Aを実行するためには、その中でも最低限、株式と事業用資産等の整理・集約が欠かせないとしています。
見える化・磨き上げには支援機関の後押しも想定されています。金融機関には、企業の健康診断にあたる「ローカルベンチマーク」などのツールも活用しながら、経営状況の見える化や、企業価値・事業価値を高める磨き上げを支援することが望まれるとされ、中小企業診断士にも同様の支援が考えられるとされています。経営者だけで整理・集約を進めるのが難しい場合も多いため、まずは顧問税理士等の身近な支援機関に相談し、法的な論点の検討や交渉が絡むときは弁護士の助言を得ることが望まれるとされています。
株式の整理・集約:分散・名義株・所在不明株主
株式は普段意識する機会が少ないものの、分散していたり、所在の分からない株主がいたりすると、M&Aを実行するときの大きな障害になりかねないとされています。株主総会の決議は議決権の過半数で通せるのが基本ですが、全事業の譲渡のような特に重要な事項には、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が要る特別決議が必要になることがあります。そのため総議決権の3分の2以上を保有しておくことが望ましく、会社の全株式を譲り渡す株式譲渡では、基本的に経営者が全株式を持っておく必要があるとされています。そのために他の株主から株式を買い取り、買取資金を用意しなければならない場合もあります。
株主名簿が正しく整っているか、実際には出資していない親族や知人の名義になっている株式(いわゆる名義株)がないか、株券を発行している会社では株券がきちんと管理されているかも確認が必要です。弁護士向けの記載では、名義株について実質的な株主への名義書換を進めておくこと、所在不明株主には会社法の定める手続で対応するのが原則であること、全株式を譲渡する場合は全株主から買い取るか株式譲渡についての委任状を取っておくこと、高齢の株主が健康なうちに早めに株式を買い集める例があることなども紹介されています。
事業用資産の確認と、会社と経営者個人の切り分け
不動産や機械設備などの重要な事業用資産が第三者の名義になっている、担保が付いている、遺産分割で争われている、第三者と係争中であるといった場合には、引き継いだ後の事業の継続に支障が出かねないため、確認が必要とされています。
中小企業には家族経営が多く、会社の財産と経営者個人の財産がはっきり分かれていないことも少なくありません。そのままでは譲り渡したい資産を円滑に引き渡せないこともあるため、明確に区別して整理しておく必要があるとされています。士業向けの記載では、役員社宅、役員への貸付金、役員を対象とする保険といった経営者と会社の間の取引も、整理の対象として挙げられています。
この切り分けは経営者保証にも関係します。ガイドラインは、「経営者保証に関するガイドライン」が会社に求める、法人と経営者の関係の明確な区分・分離、財務基盤の強化、財務状況の正確な把握と適時適切な情報開示による経営の透明性の確保に取り組んだうえで、M&Aを進める前に保証の解除を金融機関等に相談することも選択肢になり得るとしています。
書類の整備と、帳簿に表れない債務の洗い出し
中小企業では、会社法上求められる株主名簿や株主総会・取締役会の議事録の整備が不十分な例が少なくないとされています。こうした書類が整い、社内の統治の仕組みができていることは、譲り受け側が円滑にM&Aを進められると判断する材料にもなり得るため、公認会計士や税理士がその整備を支援することが望まれるとされています。
また、計上されていない退職給付債務や未払いの残業代といった、帳簿に表れない債務(簿外債務)が問題になるケースが多いとされ、こうした問題があれば必要に応じて弁護士等と連携し、事前に整理しておくことが望ましいとされています。部門の間で取引先の信用情報や在庫の情報を共有する仕組みづくりなど、正確な決算書の土台となる社内の体制づくりも、公認会計士による支援の例として挙げられています。
準備の段階で課題を洗い出しておく意味は、後の工程にも表れます。ガイドラインは、経営者自身が気付いていない課題やリスクを抱える中小企業も少なくなく、経営者からの聞き取りだけでリスクを測るには限界があるとしています。調査が十分でないと、最終契約で譲り渡し側が負う表明保証の範囲や補償の負担が重くなることにつながり得るとされています。
試験で問われやすい誤った理解
「最初の相談には、M&Aに必要な資料を一通りそろえてから行くべきだ」という理解は誤りです。ガイドラインは、直近3年分の申告書・決算書・勘定科目内訳明細書の写しがあれば足り、詳しい資料は支援機関の指示を受けてからでよいとしています。「M&Aをするかどうか決めてから相談する」という考え方も適切ではなく、決めていないからこそ相談が必要とされています。
「全事業の譲渡でも過半数の株式があれば足りる」という理解も正確ではありません。特別決議が必要になる場合に備え、総議決権の3分の2以上を保有しておくことが望ましいとされています。また、不利な情報は後の段階まで伏せておくのではなく、支援機関には先に伝える姿勢が望まれている点も押さえておきましょう。
まとめ
譲り渡し側の準備は、支援機関への早めの相談、後継者不在の確認と希望条件の整理、株式と事業用資産の整理・集約、会社と経営者個人の切り分け、書類の整備と帳簿に表れない債務の洗い出し、という順に考えると整理しやすくなります。いずれも経営者だけで抱え込まず、顧問税理士をはじめとする支援機関や、法的な論点では弁護士の助言を得ながら進めることが大切です。
事前相談や準備の段階で押さえておきたい論点は、当サイトの対策アプリの演習問題(解説付き)でも確かめられます。
本テーマの理解度は、事前相談・検討開始の演習問題を解くで確認できます。
よくある質問
M&Aを相談する前に、どのくらい資料を準備しておけばよいですか?
ガイドラインは、最初の相談には直近3年分の税務申告書・決算書(損益計算書・貸借対照表を含む)・勘定科目内訳明細書の写しがあれば十分としています。会社案内など事業の概要が分かる資料もあるとよく、それ以外の詳しい資料は支援機関から指示を受けてから用意すれば足りるとされています。
株式が親族などに分散している場合はどうすればよいですか?
ガイドラインは、特別決議に備えて総議決権の3分の2以上を保有しておくことが望ましく、全株式を譲り渡す場合には基本的に経営者が全株式を保有しておく必要があるとしています。他の株主からの買取りや委任状の取得が必要になることもあり、株主との協議・交渉が絡む場合は弁護士の関与が望まれるとされています。具体的な進め方は士業等専門家にご確認ください。
「見える化」「磨き上げ」は何から始めればよいですか?
ガイドラインは、中小M&Aの実行に向けて最低限必要なのは株式・事業用資産等の整理・集約だとしています。経営状況の把握には「ローカルベンチマーク」等のツールを活用する方法も紹介されており、金融機関や中小企業診断士などの支援機関に相談しながら進めることが考えられます。
未払いの残業代など言いにくい問題も、相談のときに伝えるべきですか?
ガイドラインは、自分にとって不利な情報や言いにくい情報ほど支援機関に先に伝える姿勢が望まれるとしています。早く分かれば対応策を早期に検討しやすくなるためです。帳簿に表れない債務などは、必要に応じて弁護士等と連携して事前に整理しておくことが望ましいとされています。
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- 中小M&Aガイドライン(第3版)(p28(中小M&Aの事例:譲り渡し側の条件の明確化が成立に寄与した事例))
- 中小M&Aガイドライン(第3版)(p34-35(中小M&Aに向けた事前準備:支援機関への相談・相談時の資料・後継者不在の確認と秘密保持))
- 中小M&Aガイドライン(第3版)(p35(引退後のビジョンや希望条件の検討・「見える化」「磨き上げ」))
- 中小M&Aガイドライン(第3版)(p35-36(株式の整理・集約・事業用資産等の整理・集約))
- 中小M&Aガイドライン(第3版)(p50(譲り渡し側の経営者保証:M&Aを進める前の信用力・ガバナンスによる解除))
- 中小M&Aガイドライン(第3版)(p52(DDの非実施:潜在的な課題・リスクと表明保証の負担))
- 中小M&Aガイドライン(第3版)(p106(金融機関:「見える化」「磨き上げ」支援・ローカルベンチマーク))
- 中小M&Aガイドライン(第3版)(p112(公認会計士:プレM&A支援=ガバナンス構築・株式等の整理集約と簿外債務・内部統制))
- 中小M&Aガイドライン(第3版)(p117(税理士:コーポレート・ガバナンスの構築支援・株式・事業用資産等の整理・集約の支援))
- 中小M&Aガイドライン(第3版)(p121(中小企業診断士:「見える化」「磨き上げ」への支援・ローカルベンチマーク))
- 中小M&Aガイドライン(第3版)(p124-125(弁護士:名義株主・所在不明株主への対応・株式の整理集約・事業用資産等の整理集約))