譲渡代金の分割払いやアーンアウトとは?最終契約後のトラブルを防ぐ確認点【非公式】
更新日:2026-11-04
本アプリ「中小M&A資格試験 対策」は運営団体非公式の対策アプリです。本記事は公式の過去問ではなく、中小企業庁が公表する「中小M&Aガイドライン」「中小PMIガイドライン」「専門人材スキルマップ」等に基づき作成した非公式の解説であり、教育・学習目的で提供しています。試験の実施団体とは一切関係ありません。
中小M&Aでは、譲渡代金はクロージングの時に支払われるのが基本です。ところが、譲り受け側の資金の事情や、前の経営者にしばらく会社に残ってほしいといった事情から、代金の一部を後から払う、業績に応じて追加で払う、といった取り決めが最終契約に入ることがあります。
本記事は、中小M&Aガイドライン第3版が、最終契約の後やクロージングの後に当事者間のトラブルにつながり得るものとして取り上げている支払・手続の取り決めについて、その中身と注意点を非公式に整理したものです。
実際の契約条項の決め方や、税務・法務にかかわる判断は案件ごとに異なります。最終契約の内容は、弁護士をはじめとする士業等専門家や支援機関に必ずご相談ください。
代金はクロージングで払うのが基本、後払いには争いの種が残る
ガイドラインによると、最終契約にもとづく支払や手続はクロージングの時点で実行するのが基本で、譲渡対価もクロージングを迎えて初めて支払われるのが通常とされています。そのうえで、依頼者の希望などにより、支払や手続がクロージングより後に回されることがあるとされています。
ガイドラインは、こうした後払い型の取り決めについて、支払が遅れたり、最終契約の文言の読み方が当事者間で食い違ったりすることで争いに発展するリスクがあり、慎重な検討が要るとしています。第3版では、最終契約に定めた事項が守られないといった当事者間のトラブルが起きていることを踏まえ、こうしたリスクと対応策の解説が加えられました。中小M&Aは最終契約を結べばすべて終わるわけではない、という点を押さえておく必要があります。
譲渡対価のクロージング後分割払い
分割払いは、譲渡対価を一度に払わず、クロージングの後に何回かに分けて支払う取り決めです。譲り受け側の手元の資金が対価に足りない場合に使われることがあるとされています。
一方で、クロージング後の事業の状況や譲り受け側の状況によっては残りの代金が払われないリスクがあり、支払期間が長くなるほどそのリスクは高いとされています。
これに関連して、ガイドラインは仲介者・FAに対し、譲り受け側が最終契約を履行して事業を引き継ぐ意思と能力を持っているかを確かめるため、財務状況・事業実態・コンプライアンスの面から調査することを求めています。財務状況については、想定される譲渡対価を調達できるか、M&Aの後も事業を続けられる状況にあるかという観点からの確認が必要とされています。
役員退職慰労金の後払いと、株式の段階的な取得
前の経営者や役員が、事業の引継ぎなどのためにクロージング後もしばらく会社に残る場合には、その動機付けとして、役員退職慰労金をクロージングの後に支払う取り決めが使われることがあるとされています。ただ、これもクロージング後の事業や譲り受け側の状況しだいで、支払われないリスクがあるとされています。
株式の段階的な取得は、譲り渡し側の株式を一度にではなく、複数回の取引に分けて取得していく方法です。譲り渡し側の経営者のノウハウなどを引き継ぎたい場合に、経営権を少しずつ移す目的で用いられることがあるとされています。ただし、時間がたつうちに事業の状況が変わり、最終契約で決めた取得をそのとおり実行するか、その条件でよいかについてどちらかの当事者の考えが変わって、履行されないリスクがあるとされています。
いずれの取り決めも、譲り渡し側にとっては「クロージングの後に受け取るはずのもの」が残る形になります。受け取れるかどうかが相手の業績や意向に左右される以上、何を・いつ・どの条件で受け取るのかを最終契約で曖昧にしないことが欠かせません。
アーンアウト条項:業績目標の達成で追加の対価を払う
アーンアウト条項は、クロージング後の一定期間(ガイドラインでは3年以内が多いとされています)のある時点について、売上や利益といった財務の目標、あるいは販売個数や入居率のような財務以外の目標を置き、達成されたら譲り受け側が譲り渡し側に追加の対価を支払うと決めておく条項です。
譲り渡し側には、目標を達成すれば追加の対価を受け取れる可能性があります。譲り受け側には、クロージング時に払う金額を抑え、その後の業績を見てから追加分を払える利点があり、M&A後の業績悪化のリスクを避ける手段になり得るとされています。将来の利益の見通しは立てにくいものの大きく伸びる可能性がある、ベンチャー企業のM&Aで多く使われるとされています。
反面、目標や追加対価の決め方が曖昧だと争いになりやすく、クロージング後の状況によっては支払われないリスクもあるとされています。ガイドラインは、アーンアウト条項はDDや当事者間の調整を十分に行ったうえで、まだ確定していない具体的なリスクに対応するために設けるべきものだとしています。調整が尽くされていない段階で、譲り渡し側と譲り受け側の評価額の開きを埋めるために使うことには、慎重な検討が求められています。
株価調整条項と、支払った代金の返還に関する条項
株価調整条項は、最終契約からクロージングまでの間に譲り渡し側の企業価値が動いた場合に、その変動を踏まえてクロージング時に譲渡額を調整すると決めておく条項です。調整額の計算方法が曖昧だと争いになるリスクがあるとされています。また、中小M&Aでは最終契約からクロージングまでの期間が短いことが多いため、そもそもこの条項を設けるべきかを慎重に考えるべきだとされています。
支払金の返還に関する条項は、過去の投資による損失が出たり、過去の年度の決算を修正することになったりした場合などに、すでに受け取った譲渡対価を譲り渡し側が譲り受け側へ払い戻すと定める条項です。どんな出来事が起きたら払い戻すのかの決め方が曖昧だと、その出来事が起きたかどうかをめぐって争いになるリスクがあるとされています。
ガイドラインは、アーンアウト条項を含め、最終契約の後に譲渡額を調整・修正するこれらの条項について、仮に設けるのであれば、調整・修正が起きる条件や方法が妥当かを確かめたうえで、明確かつ詳細な内容にする必要があるとしています。
経営者個人の資産・負債の整理を、最終契約の後に残さない
会社の財産と経営者個人の財産がはっきり分かれていない中小企業では、M&Aにあたってその整理が求められます。ガイドラインは例として、帳簿には載っていない経営者個人の財産でも、経営者の名義で登記された土地のように会社の事業に使われているものは譲り受け側へ売却するか引き継ぐこと、逆に帳簿には載っているものの事業には使われず経営者が個人的に使っている自家用車のようなものは、会社から経営者個人へ売却する必要があることを挙げています。
この整理を最終契約の後に回すと、最終契約の時点で合意した内容が大きく変わり、争いに発展するリスクがあるとされています。そのため、できる限り最終契約の前に整理を済ませることが望ましく、どうしても後に残る部分があっても、最終契約の前に対象の資産を確実に特定し、資産ごとの移転方法と譲渡額を最終契約に具体的に書いておくことが重要とされています。
仲介者・FAに求められる説明:リスクの重さで2段階
ガイドラインは仲介者・FAに対し、最終契約の締結までに、双方ができる限り納得し、M&Aの後に当事者間でトラブルが起きるリスクを減らした形で(減らしてもなお残るリスクは、少なくとも当事者が理解した形で)契約が結ばれるよう支援することを求めています。そのうえで、リスクの重要性に応じて対応を2段階に分けています。
1段階目は、仲介者・FAが認識しているかどうかに関係なく対応するリスクで、譲り渡し側の経営者保証の扱い、DDを行わないこと、表明保証の内容の3つです。2段階目は、認識した段階で対応するリスクで、本記事で見てきたクロージング後の支払・手続、最終契約後の支払の調整・修正、譲り渡し側の資産・貸付金の最終契約後の整理に、最終契約からクロージングまでの期間を加えた4つです。後者について仲介者・FAは、リスクに気付いた段階で、その中身と、リスクが現実になった場合に起こり得る結果を、できるだけ具体的に当事者へ説明することが望ましいとされています。
さらに仲介者・FAは、当事者間の調整が十分でない段階でこうしたリスクを生む条項やスキームを安易に提案すべきではなく、提案するなら担当者一人の判断ではなく、明確な基準のもとで組織として判断し、記録に残して後から検証できる形にする必要があるとされています。最終契約にこうしたリスク事項が含まれることになった場合は、締結の前に改めて詳しく説明することが望ましいとされ、最終契約は、できる限り中小M&Aの知見と実務経験のある弁護士の関与のもとで結ぶことが望ましいともされています。
なお、仲介者・FAの支援は、契約内容や業務の性質によって範囲に限りがあったり、最終契約の締結後には役務が終わっていたりすることもあります。ガイドラインは、最終契約の前後を通じて継続的で実質的な支援を期待できるかを確かめておくことや、契約内容について士業等専門家にセカンド・オピニオンを求めることも有用だとしています。
試験で問われやすい誤った理解
「アーンアウト条項は、譲り渡し側と譲り受け側の希望価格の差を埋めるための便利な仕組みだ」という理解は適切ではありません。ガイドラインは、DDや当事者間の調整を十分に行ったうえで、確定していない具体的なリスクに対応して設けるべきものとし、評価額の差を埋める目的で設けることには慎重な検討を求めています。
「中小M&Aでも株価調整条項は入れておくのが標準だ」という理解も正確ではありません。中小M&Aでは最終契約からクロージングまでが短いことが多く、設けるべきかを慎重に検討すべきとされています。また、「クロージング後の支払・手続のリスクは、仲介者・FAが認識していなくても必ず説明する対象だ」というのは区分の取り違えです。認識の有無にかかわらず対応するのは経営者保証・DDの非実施・表明保証の3つで、クロージング後の支払・手続などは認識した段階で対応するリスクに分類されています。
まとめ
譲渡対価の分割払い、役員退職慰労金の後払い、株式の段階的な取得、アーンアウト条項、株価調整条項、支払金の返還に関する条項は、いずれもクロージングの後に支払や手続が残ったり、金額が動いたりする取り決めです。ガイドラインは、支払の遅れや解釈の違いから争いに発展し得るとして慎重な検討を求め、設けるなら条件や方法を明確かつ詳細に定めるよう求めています。経営者個人の資産の整理もできるだけ最終契約の前に済ませ、後に残すなら対象と移転方法・金額を契約に書き込むことが大切です。
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よくある質問
アーンアウト条項とは何ですか?
クロージング後の一定期間のある時点について、売上・利益などの財務目標や、販売個数・入居率などの財務以外の目標を設け、達成した場合に譲り受け側が譲り渡し側へ追加の対価を払うと定める条項です。ガイドラインは、目標や追加対価の定めが曖昧だと争いになりやすいとし、評価額の差を埋める目的で設けることには慎重な検討を求めています。
譲り受け側から譲渡代金の分割払いを提案されたら、どう考えればよいですか?
ガイドラインは、分割払いは譲り受け側の資金が足りない場合に使われることがある一方、クロージング後の事業や譲り受け側の状況によっては支払われないリスクがあり、支払期間が長いほどリスクが高いとしています。受け入れるかどうかや条件の決め方は、弁護士などの士業等専門家に相談しながら慎重に検討してください。
中小M&Aで株価調整条項を入れる必要はありますか?
ガイドラインは、中小M&Aでは最終契約からクロージングまでの期間が短いことが多いため、株価調整条項を設けるべきか慎重に検討すべきとしています。設ける場合は、調整額の計算方法を曖昧にしないことが大切です。
仲介者がこうした条項を提案するときに、決まりはありますか?
ガイドラインは、仲介者・FAは当事者間の調整が十分でない段階でこうしたリスクを生む条項やスキームを安易に提案すべきではなく、提案する場合は組織的な判断によることと、リスクの詳細や起こり得る結果をできる限り具体的に説明することを求めています。
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- 中小M&Aガイドライン(第3版)(p10(はじめに(第3版):最終契約に定めた事項の不履行等のトラブルとリスク・対応策の追記))
- 中小M&Aガイドライン(第3版)(p49-50(最終契約の主要な内容・譲渡対価の支払時期・当事者自身による確認・仲介者・FAへの相談の限界とセカンド・オピニオン))
- 中小M&Aガイドライン(第3版)(p53-54(クロージング後の支払・手続=譲渡対価の分割払い・役員退職慰労金のクロージング後払い・株式のクロージング後段階的取得))
- 中小M&Aガイドライン(第3版)(p54-55(最終契約後の状況に応じた支払の変動=アーンアウト条項・株価調整条項・支払金の返還に関する条項))
- 中小M&Aガイドライン(第3版)(p55(譲り渡し側経営者に関連する資産・負債等の最終契約後整理))
- 中小M&Aガイドライン(第3版)(p95-98(仲介者・FAの行動指針:最終契約の交渉・締結=2段階のリスク対応・組織的な判断・弁護士の関与))
- 中小M&Aガイドライン(第3版)(p100-101(不適切な譲り受け側の排除:譲り受け側の財務状況等の調査))